この特集、「私の三冊」では、232人もの人たちがアンケートに回答している。
今回の「私の三冊」でとくに興味をひくのが、『きけ わだつみのこえ』を選んだ人が多いことである。18人が、この本を三冊のなかの一冊に挙げており、『第二集 きけ わだつみのこえ』も1人(綿貫礼子)が選んでいるので、あわせて19人もが、『きけ わだつみのこえ』を「私の三冊」の一つとして選んでいる。この本の次に多く選ばれたのは、夏目漱石著『吾輩は猫である』と宮本常一著『忘れられた日本人』の8人となるので、『きけ わたつみのこえ』の18人は突出している。
岩波書店からアンケートを送られるような人たちが、いまの日本の状況に対して意識的・無意識的に抱いている危機感が反映されているのだろうか、と思わないでもない。
しかし、『きけ わだつみのこえ』が、日本の過去・現在・未来を考える際には、避けて通ることのできない文献の一つであり、社会や人間についての貴重な示唆を与えてくれる本であることはまちがいない。
この『きけ わだつみのこえ』への短評で、注目したものを3つだけ紹介しておきたい(肩書き等も同誌所載のもの)。
伊藤真(伊藤塾塾長/法教育(特に憲法))
憲法を理解するためには想像力が必要である。特になぜこの国の憲法が九条という非常識な規定を持つかを理解するには、戦時中の常識を知る必要がある。彼らの想いと命を生かすも殺すも我ら次第。(p.10.)
島本滋子(ノンフィクションライター)
血友病の青年アキラ(故人)はHIV感染を知ったとき、死の意味を求めてこの文庫を読んだという。自分はなぜ死なねばならぬのか。その「なぜ」を求めた青年たちの悲しみが鋭く突き刺さる。(p.44.)
畑村洋太郎(工学院大学教授/機械工学)
自分の意志や希望に反し、勉学を止め戦地に赴いた学徒の声が耳許に聞こえてくる。その人達が愛する者へ、そして次の世代の者へ託した何かが本の向こう側から聞こえてくる気がする。(p.62.)
・日本戦没学生記念会編『新版 きけ わだつみのこえ-日本戦没学生の手記』(『岩波文庫』青157-1)、岩波書店、1995年12月。
・日本戦没学生記念会編『新版 第二集 きけ わだつみのこえ-日本戦没学生の手記』(『岩波文庫』青157-2)、岩波書店、2003年12月。
0 件のコメント:
コメントを投稿